美容師になって一番最初に覚えるだろう技術「シャンプー」。美容師にとって、一番基本的な技術でもあり、大事な技術のシャンプー。
『「シャンプー」が上手いヤツは上手い技術者になる』
という言葉は、美容師の間ではすごく有名な話であり、かくゆうオカダも入社したての約1ヶ月間のシャンプー研修のときに、必死にシャンプーを上手くなろうと何十回も何百回も先輩方の頭を借りて練習してきたものだ。
僕が美容師としての人生をスタートしたときからの直属の先輩であり、営業前の朝早くや営業後の終電近くまで、入社したての僕のへたくそなシャンプーの練習に付き合って貰った、いわば美容師の基礎を教えてくれた先輩でもある。
「下の代を責任を持って育てるのが上の代の仕事」という、上下関係がはっきりとしている当時のサロン教育は、今の「怒らない教育」の時代では珍しいものかもしれないが、当時としても「スタッフの教育」に関して非常にしっかりしていたサロンだったし、そこで美容師の基礎を学べた僕は幸せなのだと思う。
「後輩が仕事が出来ないのは先輩の責任」という当たり前だが人として大事な背中を見ながら僕は育てて貰ったので、今では感謝しかない。アシスタントがシャンプーのクレームを貰うと、シャンプーをしたアシスタントではなく、よくひとつ上の世代が「教育不足」として怒られていたものだ。
特に僕のひとつ上の代であった中山なんかは、僕にシャンプーされすぎて頭皮が乾燥しすぎてしまい、頭の皮がむけて髪の毛が抜けてしまっていたこともあった。そんななか、僕は早くシャンプーに合格したかったから、嫌がる中山にそれでも練習を頼んでいた。今思えばひどい後輩である。
そんな中山が現在、ずっと帽子をかぶっているのは、僕があの時シャンプーしすぎたからなのかもしれないと少し責任を感じている。本人は「別に帽子をかぶっているのは禿げているわけではない」というが、本当のところは誰も知らない。
いつもteetaで一緒にいるはずのオカダも、中山の帽子を取ったところを髪をカットをするとき意外にみせないのは、「これが俺のトレードマークだから」と彼はいうが、たいしてヤクルトのファンではないのにヤクルトの帽子を被っているの僕は知っている。
ここは神奈川の「武蔵小杉」なので、サロンとしては地域の好感度を上げるために地元のサッカーチームである「川崎フロンターレ」を応援するのだが、なんとも彼は東京出身なので、栃木の田舎モノであるオカダは「東京」というブランドに非常に弱いのである。
なので僕のブログで鳴神の写真は登場する頻度が高いのに対して、中山の登場が少ないのは「東京出身」というステータスに僕がただ引け目を感じているのかもしれない。
当時から鳴神は、2つ下の代の岡田からしても少し変わった先輩だった。
彼は僕たちの指導には一切関与することは無かった。他の先輩がたがシャンプーを教えてくれているなか、彼は一人、20代前半で店の売り上げ処理をこなしていた。
なので、2つ上の世代なのだと把握するまでに少し時間がかかったし、今ほどは多くないが当時から白髪だった為に、「この人はえらい人なんだ」と、特別な存在だと思っていた。
今となっては時効だが、僕の入社前に「モデルハント」にて「キャバクラのキャッチ」と揉めごとを起こした為、後輩の指導に関わらないということだったらしい。
今の川崎の姿からは想像もできないかもしれないが、今から十何年前の当時の川崎には日本一の商業施設「ラゾーナ」が出来るずっと前で、昼間に見せる活気溢れる街の顔とまた違った夜の顔があった。
夜の練習後で僕たち若手の美容師が帰る終電前の駅前には、ダンボールを広げたホームレスたちや、黒服のキャッチがあふれるいわゆる「夜の街」の顔の一面もあった。
そんな中、僕たち駆け出しの美容師は営業終わりに、自分の練習に付き合ってもらうモデルさんを探すため、モデルハントをしていた。
「キャバクラのキャッチ」と、「美容師のモデルハント」は、総じて相性が悪い。
キャバクラのキャッチの方には、自分たちの「テリトリー」に厳しい。女の子に声を掛けるそれぞれの「テリトリー」があるらしい。
詳しくは分からないが、そちらの業界ではその決まった「テリトリー」を荒らされるようなことをすると、揉めるらしい。そんな中、知らずにモデルハントをしていた。そんな典型的な揉め事だったらしい。
誤解をされないように書くと、僕たち若手の美容師は「キャバ嬢」を探しているわけではない。「パーマやカラーの練習代になってくれるモデル」を探しているのだ。だが、「キャッチ」にしてみたら、鳴神が「テリトリー」を荒らすやつに見えたのかもしれない。
どこが荒らすようなやつに見えるのだろうか。どうかしている。
いや、もしかしたら声を掛けられたのは店の勧誘だったのかもしれない。その辺の話は当事者にしか分からないし、今となっては聞く術が無いので迷宮入りである。
そして、その当時の話は僕から聞くことは無い。引くべきところは分かっている、空気を読むことはオカダも大人なので出来るのだ。墓場までもっていくつもりだ。
そのイズムやマインドを自分が継承していかなければいけないし、自分がやってもらったことはちゃんと後輩にも伝えなければと思う。
自分がされていやだったことは後輩にはしないでおこうと思う。そうして上手い具合に時代に合わせて変えていくことが大事だと誰かが言っていた気がする。
だが、当時の僕にも不安はあった。
自分が美容師に向いているのか向いていないのか分からずに、辞めようと悩んだこともあった。
そんな頃の岡田に一通の手紙が届いていた。
それが、僕のそんなアシスタントの辛い時代を支えることになった。
あれから何年たっただろうか。
消費税増税の影響で今となっては52円となった切手、当時の50円切手が時の経過を物語っている。当時勤めていたサロンの住所も移転し、今はその住所に僕の居たサロンは無い。今ではスーツ屋になっている。これが時間というものだ。
それでも僕はこの手紙を読むことで、当時のことが鮮明に蘇る。死ぬ前に見るアレ、何て言うんだっけ?そう、走馬灯!たぶんあの中にこのシーンは必ず出てくるんだろうなぁと思う。それくらい、僕にとっては大事な瞬間。
あれから何年、今ではこちらから会うことも叶わないお客様から頂いた、僕のシャンプーを支えた手紙。個人情報には差し支えないと思うのでそのまま掲載することにしよう。
そう、オカダは「ジョニー」と呼ばれている。ここではあまり自分のことはジョニーと呼ばないが、同僚やその時代からの友人には覚えやすいようで、「オカダ」で通じなくとも「ジョニー」で通じることが多々ある。だが、由来は自分でも曖昧なので特に説明はしない。
僕の手は美容師としては小さい。男なんだけど、女の子と同じくらいの大きさの手である。
そして、力強いシャンプーは得意ではない。いや、正確には出来ないといったほうが正しいかもしれない。「男のしっかり洗う力強いシャンプー」が苦手ないのだ。
かといって、「女性のように繊細なシャンプー」が出来るかというと、そうでもなかったりする。手は小さいが指はしっかり男性の太さがある。
「ずんぐりむっくりな手」これが一番しっり来るかもしれない。つまりは中途半端なのだろう。決して自分は「シャンプーが上手なアシスタント」ではなかった。「努力しても平凡なシャンプー」しか出来なかった。
だから当時の僕は「夢中に」お客様の頭を洗った。シャンプー中に自分から話かけることはしなかった。話しかけられると手が止まってしまった。不器用だった。なので、店販も売れなかった。同期は優秀な人ばかりだったから余計に平凡さが際立った。
だからせめて僕は気だけは掛けていようとしていた。
でも、分かってくれる人は分かってくれた。それがすごく嬉しかったし、そういう人たちを大切にしようと思った。僕はこの人たちの期待を絶対に裏切っちゃいけないと思った。
今に至るまで、職場が変わってもなお僕のところに来てくれている人たちは、僕がアシスタントの頃からシャンプーさせていただいてる方もいらっしゃる。自分がいうのは申し訳ないが、変わってる人たちだと思う。感謝しても仕切れない。
美容の技術はシャンプーに始まりシャンプーに終わるというのは、得てしてそういうことなんだろう。
冒頭に書いた
「シャンプーが上手い人は上手い技術者になる」
というのが、はたして自分に当てはまっているのかどうかは正直よく分からない。ただ美容師になって、シャンプーを学んで12年経った今でも自分でシャンプーするし、もっと上手くなる為に試行錯誤している。
「手から思いは伝わる」というが、自分が一生懸命思いを込めても届かないことは沢山ある。「努力しても叶わない」ことなんて世の中には溢れている。
今は7月で、新卒で入った美容師たちもちょうど3ヶ月経って、何かしらの迷いが生じている時期かもしれない。もんもんとして続けていても時間は流れていくし、「自分が」何のために仕事をしているのか分からなくなるかもしれない。
おそらく誰にでもそういう時はくるし、自分の人生について考える時間も必要かもしれない。
オカダの場合、自分を支えてくれたのは、「自分を必要としている人がいる」ということ。それを感じる出来事があったこと。ありがたいことだなと、しあわせなことだなと、思います。
前にも書いたけど、「美容師 やめたい」→やめたければやめればいいと思う。
別にそういう相談に関しては止めはしませんし、好きにすればいいと思ってます。人生の矛盾に目を背けるか闘っていくか、自由だとおもいます。「未来は今」だと僕は思ってます。
何かあれば話してみて下さい。LINEでもいいですしね。お気軽に。
それでは。
オカダ アキヒロ


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